潰瘍性大腸炎とはどんな病気か?
この病気は国の難病に指定されており、発症年齢は、男性では20~24歳、女性では25~29歳をピークに、若年層から高齢層まで幅広くみられます。近年では、40代以降の発症も増加傾向にあります。
潰瘍性大腸炎じゃなかった?よく似た病気
感染性胃腸炎
感染性腸炎は、下痢だけの症状で、血便を伴うことはほとんどありません。
また、症状が続く期間も、感染性腸炎は数日で治ることがほとんどですが、潰瘍性大腸炎は数週間以上続く点が異なります。
症状が似ていることから判別が難しく、状況によっては、症状が落ち着いてからも、経過観察を続け、再発の有無を確認する必要がある場合もあります。
潰瘍性大腸炎の主な症状
これらは個人差があり、病気の進行度や大腸のどの部分が影響を受けているかによって異なります。
粘血便や血便
潰瘍性大腸炎の代表的な症状の一つが、粘血便です。
粘血便とは、便に血液や粘液が混ざった状態の便のことで、赤いゼリー状のものが付着しているように見えることもあります。
潰瘍性大腸炎になると、傷ついた腸管から血液や粘液が出ることで、便に混ざって、血便や粘血便として現れます。
しぶり腹
しぶり腹とは、頻繁に便意を感じるにもかかわらず、便が出なかったり、少量しか出なかったりする症状のことです。
下腹部痛を伴う場合や、便意はあるものの、実際には少量しか排便できず、残便感に悩まされることもあります。
しぶり腹は、便秘とは違い、直腸に便が溜まっていないにもかかわらず、直腸の粘膜が炎症を起こしているため、便意をもよおします。
そのため、トイレに行っても、実際には便が出ないということが起こります。
便秘としぶり腹は、原因が異なるため、治療法も異なります。
下痢
潰瘍性大腸炎では、腸の粘膜に炎症が起こることで、様々な原因が重なり、下痢の症状が現れます。
まず、炎症を起こした粘膜から、水分を含んだ浸出液が大量に分泌されることが挙げられます。
また、炎症によって腸が水分を正常に吸収できなくなることや、腸の蠕動運動が活発になることで、大腸に便を留めておく機能が低下することも要因となります。
重症化すると、腸管からの出血量が増え、便よりも血液の量が多くなり、血性の激しい下痢になることもあります。
腹痛
潰瘍性大腸炎による腹痛は、主に、炎症を起こした直腸が刺激されることにより、肛門の内側や直腸付近に強い痛みを感じることが多いです。
また、炎症によって腸内にガスが溜まることで、便がうまく排出されずに詰まってしまうため腹痛の原因となります。
重症化し、症状が強く出ているときには、話すこともつらいほどの激しい腹痛に襲われる場合もあります。
潰瘍性大腸炎の重症度
潰瘍性大腸炎の症状は、大腸の炎症の範囲や重症度によって大きく異なります。軽症の場合は、少量の血便がみられる程度であることが多いです。
しかし、重症化すると、排便回数の増加、鮮血を伴う大量の血便、激しい腹痛、発熱、倦怠感、体重減少、貧血などの症状が現れることがあります。
潰瘍性大腸炎は、適切な治療を行わなければ、症状が進行し、重症化する恐れがあります。少しでも症状が気になる場合は、自己判断せずに、早めに受診しましょう。
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎の原因は、まだはっきりと解明されていません。
しかし、腸の免疫機構が過剰に働くことが、発症に関与していると考えられています。遺伝的な要因に加えて、食事や生活環境といった環境要因が重なることで、腸内細菌のバランスが乱れたり、腸の粘膜における免疫の調整機能が損なわれたりする結果、免疫反応が過剰になり、腸に炎症が起こると考えられています。
潰瘍性大腸炎になりやすい人はどんな人?
潰瘍性大腸炎は、複雑な要因が絡み合って発症すると考えられています。
明確な原因は解明されていませんが、これまでの研究から、以下のような人たちが発症しやすいことがわかっています。
遺伝的要因
家族歴
家族に潰瘍性大腸炎の患者がいる場合、遺伝的な要因が影響し、発症リスクが高まる可能性があります。
環境要因
食生活
高脂肪・低食物繊維の食事や、加工食品の多い食事は、腸内環境を悪化させ、発症リスクを高めます。
腸内細菌
腸内細菌のバランスが崩れると、免疫システムに異常が生じ、潰瘍性大腸炎が発症する可能性があります。
その他の要因
ストレス
長期的なストレスは、免疫機能を低下させ、発症リスクを高める可能性があります。
免疫系の異常
免疫システムが過剰に反応し、腸の粘膜を攻撃することで炎症が起こり、潰瘍性大腸炎を発症することがあります。
潰瘍性大腸炎の診断・検査
潰瘍性大腸炎の確定診断には、大腸カメラ検査が最も重要となります。
大腸カメラ検査では、大腸の粘膜を直接観察し、炎症の程度や範囲などを調べます。
また検査時に組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べることで、他の病気を除外することもできます。
その他、便検査、超音波検査、CT、MRIなどの検査を行うこともあります。
潰瘍性大腸炎の治療
潰瘍性大腸炎は、現在のところ完治させる治療法は見つかっていません。
そのため、適切な治療を続けて炎症を抑え、寛解(症状が落ち着いた状態)を維持することが重要です。
治療には、炎症を早期に抑えるための「寛解導入療法」と、寛解を維持して再発を防ぐための「寛解維持療法」の二つがあり、それぞれ患者さまの状態に合わせて進められます。
治療方法としては、薬物療法、血球成分除去療法、そして外科的治療が選択されます。
薬物療法
薬物療法では、症状のコントロールと再燃の予防を目的として、主に以下の薬剤が使用されます。
5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸)
5-ASA製剤(メサラジン・サラゾスルファピリジンなど)は、腸の粘膜に直接作用して炎症を抑えます。(この薬は腸の粘膜に直接作用し、炎症を抑える働きを持っています。)
症状の改善を目指す「寛解導入療法」だけでなく、再燃を防ぐための「寛解維持療法」にも広く用いられます。
副腎皮質ステロイド薬
炎症が強い場合には、副腎皮質ステロイド薬が用いられます。 プレドニゾロンなどのステロイド薬は、炎症を強力に抑える効果があり、短期間で症状を和らげる力がありますが、再燃を防ぐ効果は期待できません。
そのため、ステロイド薬で症状を抑えた後は、5-ASA製剤や免疫調整薬などで安定した状態を保つ治療に移行します。
生物学的製剤
アダリムマブやインフリキシマブといった薬剤は、生物学的製剤に分類される抗TNFα受容体拮抗薬です。
この他にも、現在、様々な生物学的製剤が使用可能となっています。生物学的製剤は、免疫の異常な反応を抑え、難治性の潰瘍性大腸炎に有効とされています。
免疫抑制剤・免疫調整剤
免疫の働きを調整する免疫抑制薬・免疫調整薬も、病気の進行を防ぐために用いられることがあります。
アザチオプリン、タクロリムス、6-メルカプトプリン、シクロスポリンなどは、免疫反応を抑えることで、症状の進行を防ぎます。
治療法の選択について
治療には、内服薬だけでなく、注射剤や坐剤、注腸剤など多様な投与方法が選択肢として用意されています。
これにより、炎症が起こっている部位に的確に薬を届けることが可能です。
治療を続ける上での注意点
潰瘍性大腸炎の治療では、薬を正しく使い続けることが重要です。
症状が落ち着いても、自己判断で治療を中断すると、再燃のリスクが高まります。医師の指示を守り、継続的に治療を受けることで、生活の質を保つことができます。
治療中、不安や疑問が生じた際は、医師や医療スタッフに気軽にご相談ください。
血球成分除去療法
血球成分除去療法は、重症化し、ステロイド治療でも効果が不十分な場合に行われる治療法です。
患者様の腕の静脈から血液を体外に取り出し、特殊なフィルターを通して、炎症の原因となる成分を吸着・除去した後、再び体内に戻す治療法です。
外科的治療
薬物療法などの治療で効果が得られない、大出血や穿孔、中毒性巨大結腸症、 がん化などの合併症が生じた場合は、外科手術が検討されます。日常生活に支障をきたし、生活の質の向上が見込めない場合にも、手術が選択肢となります。
潰瘍性大腸炎では、病変は主に大腸に限局しているため、原則として大腸の全摘出術が行われます。
ただし、近年では、患者様の負担を軽減するため、肛門を温存する手術方法が主流となっています。
潰瘍性大腸炎の人の日常の過ごし方
潰瘍性大腸炎の患者様は、日常生活を快適に過ごすためにいくつかのポイントに注意する必要があります。
食事は消化の良い食材を選ぶ
腸に負担をかけないために、消化の良い食材を選びましょう。
以下のような食材が一般的におすすめです。
白米・おかゆ
精白された穀物は消化が良く、腸への刺激が少ないです。
白身の魚や鶏肉
脂肪分が少なく、消化に良いタンパク源です。
野菜スープ
柔らかく煮込んだ野菜は、繊維が柔らかくなり、腸にかかる負担が少なくなります。
食物繊維の摂取に注意
食物繊維は健康に良いとされますが、潰瘍性大腸炎の患者様の場合、特に発症時や症状が悪化している際には、以下の様な食材を方に摂取するのは控えましょう。
不溶性食物繊維
(例:セロリ、ブロッコリー、全粒穀物など)は腸の動きを活発にし、炎症を悪化させる可能性があります。症状がある場合は避けた方が良いです。
脂肪分と乳製品の制限
高脂肪の食事は特に消化に時間がかかり、腸に負担をかかりやすく、症状が悪化しているなと感じている時には控えることをおすすめいたします。
適度に運動をする
潰瘍性大腸炎の患者さんにとって、過度な運動は避けるべきですが、適度な運動はストレス解消や体力維持に役立ちます。ウォーキングやヨガなどの無理のない範囲で行う軽い有酸素運動や、ストレッチを行うようにしましょう。
ストレス管理
ストレスも潰瘍性大腸炎の症状を悪化させる要因です。ストレスを感じたとき、心身をリフレッシュさせるための方法の一つに「リラクセーション」があります。
深い呼吸をしたり、瞑想を行ったり、あるいは自分の好きなことをして時間を過ごすなど、人それぞれに合うリラックス方法を見つけることが大切です。
また、規則正しい生活を送ることも、ストレス軽減に繋がります。十分な睡眠をとり、休息をしっかりとることで、心身のリフレッシュを図りましょう。